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投稿日時:2026.03.01
世界的に毛にある科学誌『サイエンス』で、ある研究結果が発表された。それは、70年にわたり生態系の悪化が続いてきた中国・長江で、回復の兆候が確認されたというもの。大規模な漁業禁止措置の効果により、魚類の生物量が倍増し、絶滅危惧種の個体数も増加しているという。
この研究を発表した調査チームは、人口約4億人と世界有数の工業地帯を支える長江流域の環境変化を分析したという。その結果、禁漁措置の実施後に、魚類の総生物量は2倍以上に増加し、生物多様性も13%向上したことが明らかになった。
長江では2021年、中央政府が10年間の全面的な漁業禁止を導入した。それ以前から中国の科学者らは、魚類資源のさらなる減少を防ぐため禁漁を求めていたが、規制は断片的にとどまっていた。魚類資源はかつて85%も減少していたとされる。
今回の研究結果について、フランス・トゥールーズ大学の生物学者セバスチャン・ブロス氏は米ガーディアンでコメントし、「政府の対策が単に機能しただけでなく、実際に状況を改善したと言える、極めて前向きな事例だ」と高く評価。さらに、「過去20年で見た中でも最も明るい淡水保全のニュースだ」と語っている。
今回の10年間におよぶ全面的な漁業禁止措置は、「進化ゲーム理論」の原則に基づいて設計された。
地域社会、地方政府、中央政府という三者が、罰則と報酬の組み合わせによってどのように行動するかを分析し、制度設計に反映させたという。政府は約20万人の漁業者に対する補償や代替雇用の確保に約30億ドルを投じ、関係する約10万隻の船の多くを廃船とした。
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その結果、漁業禁止措置から約4年で、早くも大きな成果が得られている。魚類の増加だけでなく、絶滅危惧種の回復も確認されており、とくに「微笑んでいるイルカ」とも表現される長江スナメリは、観測個体数が400頭から600頭に増加したと報告された。
かつて「女神」として崇められ、長江に生息していたヨウスコウカワイルカ(バイジー)は、汚染やダム建設、船舶交通、電気やダイナマイトを用いた無謀な漁業などの影響で、2006年には機能的絶滅が確認されたが、長江で唯一のクジラ類となる長江スナメリは、復活の兆しを見せている。
この研究を率いた中国科学院の熊方円氏は、「世界的に生物多様性の減少が進む中でも、大規模な復元を支える大胆な政治判断によって、過去の生態系の損傷を逆転させ、より良い未来につなげる可能性が示された」との見解を示した。
ただし、研究者らは長江の生態系が依然として人為的圧力に対して脆弱であることも強調している。違法漁業は引き続き脅威であり、とくに支流の贛江では取り締まりの強化が求められているという。
また、水質改善や、絶滅危惧種のチョウザメが産卵場へ到達できるよう水力発電所周辺での通過経路確保も課題として挙げらるなど、問題はまだまだ多い。
それでも今回の結果は、長年の悪化を経て、中国政府による生態系対策が具体的な成果を示し始めた可能性を示すものと受け止められている。
政府がここまでの強い主導ができるかは、国それぞれの事情があり容易ではないが、人類の決断によって大きな回復が見られたのは希望であるのは間違いない。世界情勢の混沌がより一層深まるなか、私たちが生かされている地球の環境保護への意識が薄れてしまわないことを願う。