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レジャー施設の裏側にある本質的使命。|秋田市大森山動物園が社会に問う、絶滅危惧種保全のリアル
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レジャー施設の裏側にある本質的使命。
秋田市大森山動物園が社会に問う、絶滅危惧種保全のリアル

投稿日時:2026.07.22

休日の動物園には、いつも子供たちの歓声が響いている。多くの一般消費者にとって、動物園とは愛らしい動物たちに癒される「レジャー・娯楽施設」だろう。

しかし、その華やかな表舞台の裏側には、来園者の目には触れない「種の保存」という果てしなく重い社会的役割が存在している。

秋田市大森山動物園は、前身である児童動物園時代の1970年から半世紀以上にわたり、国の天然記念物であり絶滅危惧種に指定されているニホンイヌワシの飼育・繁殖に取り組んできた。動物園はいかにして命を繋ぎ、その行動を社会へと還元しているのか。

大森山動物園 副園長の三浦匡哉さんの言葉から見えてきたのは、決して美談だけでは語れない、泥臭い試行錯誤と「行動の設計」の歴史だった。(取材:USME編集部)

レジャー施設の裏側にある本質的使命。|秋田市大森山動物園が社会に問う、絶滅危惧種保全のリアルイメージ画像

「珍しい動物を見せる場所」からの脱却。動物園の本質的な使命

「昔の動物園というのは、世界のあちこちに行って珍しい動物を捕まえてきて展示をする、ということをやってきました。しかし今は、野生動物の数が激減しています。野生から捕まえてくるのではなく、園内でしっかりと繁殖し、命を繋いでいくことが大前提となっているのです」

三浦さんは、現代の動物園が抱える使命をそう語る。展示する動物がいなくなれば施設は存続できない。だからこそ、飼育している動物の命を繋ぐ「種の保存」は、動物園の根幹を成す役割なのだ。

「そしてもう一つ。野生の動物が絶滅していくということは、人間が住む環境そのものが失われていくことを意味します。野生動物をこれ以上減らさないために、来園者をはじめ多くの人たちに『地球の現状』をお伝えしていくことも、私たちの重要な使命だと考えています」

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ニホンイヌワシが直面する「高齢化と少子化」。人間社会の歪みがもたらす危機

現在、日本国内の動物園でニホンイヌワシを飼育・展示しているのはわずか11園しかない。野生における生息数も数百羽程度と推測されており、絶滅のカウントダウンが始まっている。その背景にあるのは、皮肉にも我々人間の社会活動の変化だ。

「イヌワシは日本のワシ・タカの仲間で最も大きい鳥です。彼らが子育てをするには、餌となる野ウサギなどを安定して捕まえられる環境が必要です。昔は、人間が山から木を切り出したり、家畜の草を刈ったりすることで、山に『草地』という空間がありました。しかし戦後、スギなどの植林が進み、山に人間の手が加わらなくなったことで、見通しの良い草地が消失し、イヌワシは餌をうまく捕まえられなくなってしまったのです」

一度絶滅したコウノトリやトキが、農薬を減らした田んぼの再生によって野生復帰を果たしつつあるのとは対照的に、広大な狩り場を必要とするイヌワシの環境再生は極めて困難だ。

「餌が捕まえられないため、親鳥の栄養状態が悪くなり卵すら産めない。ヒナが孵っても育たない。さらに、生き残っている親鳥たちも年老いて繁殖率が下がる。今、野生のイヌワシが抱えている問題は、人間と同じ『高齢化』と『少子化』なんです」

綺麗事では済まない命の現場。立ちはだかる「きょうだい殺し」の壁

種の保存を担う大森山動物園での飼育環境は、決して困難なことばかりではない。日本の気候に適応している鳥であり、野鳥との接触を絶つことで鳥インフルエンザなどのリスクも抑えられている。

日常的な餌も、ニワトリの頭や馬肉、繁殖期にはネズミを与えるなど、入手可能なもので維持できている。しかし、繁殖においては残酷な自然の摂理が立ちはだかった。

「イヌワシは一回の繁殖で大体2つの卵を産みますが、孵化には数日のタイムラグがあります。すると、先に生まれたヒナが、後から生まれたヒナを攻撃して殺してしまうのです。せっかく2つの卵が孵っても、放っておけば必ず1羽しか育たないという現実がありました」

目の前で一つの尊い命が失われていく。

種の保存という大義名分を掲げていても、命の現場では綺麗事や理想論は何の役にも立たない。そこで現場の飼育員たちが絞り出したのが、人間の知恵と泥臭い工夫の結晶だった。

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スピーカーとパペットが生んだ「見えない手」

「私たちが行き着いたのは、親元で育つ時期と、人の手で育つ時期を数日ごとに入れ替える『ローテーション』という方法でした。人が隙を見て巣から1羽を連れ出し、2〜3日人の手で育ててから、また入れ替える。これを繰り返すのです」

しかし、猛禽類の子育てにおいて人間が過度に介入することは、「刷り込み」という致命的なリスクを伴う。ヒナが「自分は人間に育てられている」と認識してしまえば、将来、イヌワシとしての自然な繁殖や行動ができなくなってしまうのだ。

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ここで大森山動物園のスタッフが実践したのは、徹底的な「環境の設計」だった。

「餌をやる時は、イヌワシの頭の形をしたパペットを手に被せ、親鳥が直接餌を与えているように見せかけました。さらに、人間の手で育てている間も、ヒナの近くにスピーカーを置き、親鳥がいる巣の環境音を流し続けたのです。ヒナに『人間の気配』を完全に消し去るための工夫でした」

スピーカーから流れる親の気配と、パペットによる給餌。傍から見れば地味で泥臭いこの実践こそが、イヌワシに何の疑いも抱かせず、確実に命を繋ぐための「行動の設計」だった。

この試行錯誤の結果、同園では最終的に3羽のイヌワシを同時に無事巣立たせるという画期的な成果を上げたのだ。

組織の枠を超えたバトン、そして野生への還流

現在、大森山動物園で培われたこのローテーション技術や育雛のノウハウは、決して一園の中に囲い込まれることなく、ニホンイヌワシを飼育する他の動物園とも共有されている。

「巣を作る時の材料や、時期ごとの餌の与え方など、常に横の連携を取りながら『まずは国内の動物園にいる四、五十羽のイヌワシを、みんなで協力してしっかりと維持していこう』と動いています。さらに、これまでは飼育下での個体群を維持することがメインでしたが、今年からは、動物園で生まれ育ったイヌワシを野生に放し、減少の一途をたどる野生の個体数を直接バックアップする取り組みも動き出しました」

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秋田市大森山動物園・小松守名誉園長

この、組織の枠を超えた広域的な「命のバトン」の基盤を築き、大森山動物園の保全活動を強烈なリーダーシップで牽引してきたのが、前園長の小松守名誉園長だ。

1975年に獣医師として同園に赴任して以来、小松氏は現場の最前線でイヌワシの人工授精や孵化・育雛技術の開発に取り組み、国内における生息域外個体群の創出と維持に生涯を捧げてきた。

その知見は動物園内にとどまらず、環境省イヌワシ保護増殖事業の各種検討会やワーキンググループ委員としても発揮され、国の野生復帰施策や事業計画改定への助言、さらには行政と連携した展示方法の確立を通じて、イヌワシを身近に感じられる機会を創出してきた。

こうした半世紀に及ぶ泥臭い試行錯誤と多大なる功績が認められ、令和8年5月10日、第80回愛鳥週間「全国野鳥保護のつどい」記念式典において、令和8年度野生生物保護功労者表彰の「環境大臣賞」を受賞した。

園長を退任した今も名誉園長として後進の指導に当たる小松氏の歩みは、同園の保全活動の確固たる地層となっている。

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お話を伺った、秋田市大森山動物園・三浦匡哉副園長

先人たちが積み上げてきた確かな技術と想いを受け継ぎ、三浦さんたち現在のスタッフは、その地層の上でさらに先の未来を見据えている。

「いつか、動物園で育った卵の一つをそのまま野生の巣に戻すことができるかもしれない。私たちはその未来を確信していますし、だからこそ、人間の気配を消して鳥本来の行動を引き出すための環境設計や技術開発を、ここまで続けてこられたのです」

レジャー施設としての動物園。その華やかな賑わいの裏側にあるのは、絶滅の淵にある命を前に決して絶望せず、スピーカーとパペットという身近な道具を使って泥臭く命を繋ぎ止める、プロフェッショナルたちの静かな執念だった。

環境を守る、あるいはサステナブルな社会を作るとは、決して大上段に構えて大義名分を振りかざすことではない。今ある状況を冷徹に見極め、今できる小さな行動をどう仕組みとして「設計」していくか。

秋田の地で半世紀を超えて紡がれてきたニホンイヌワシの物語は、私たち一人ひとりの日常に対しても、「昨日までの失敗を明日の価値に変える」ための諦めない行動の力を、静かに問いかけている。

取材:USME編集部
写真提供:秋田市大森山動物園

秋田市大森山動物園

住所 〒010-1654 秋田県秋田市浜田字潟端154番
電話 018-828-5508
公式サイト https://www.city.akita.lg.jp/zoo/index.html
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