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投稿日時:2026.07.01
環境問題への関心が高まる中で、「資源循環」や「サステナブル」を掲げる企業は多い。一方で、それを現場の負担にせず、継続していくことは簡単ではない。では、どうすればこの取り組みを“続く仕組み”として根付かせることができるのか。
秋田市大森山動物園が約30年前から展開する「ゾウの排泄物を有効活用する取り組み」は、毎日大量に出る動物の排泄物を堆肥化し、地域社会へと還元する活動だ。
その実践には、環境配慮を“特別な活動”として切り離すのではなく、コスト削減というリアルな課題から出発し、事業の中に自然に組み込むためのヒントがある。秋田市大森山動物園の副園長、三浦匡哉さんに、USME編集部が話を聞いた。
動物園には、ゾウやキリン、動物園には、ゾウやキリン、ラクダといった多くの草食動物がいる。彼らが毎日消費するエサの量は膨大であり、それに比例して途方もない量の排泄物が出る。
「ゾウのウンチは、一つの塊で2、3キロぐらいあるんです。これが1回で3つ、4つと出てくる。ゾウだけでも1日に40〜50キロ、ほかの草食動物のフンや食べ残した草を合わせると、毎日100キロ以上という膨大な量になります」
1999年当時、これらはすべて園内外で野積みし発酵させた後に畑へすき込むなどして処理されていたが、1999年11月に家畜排泄物処理法が施行され、堆肥舎の整備などが義務化された。
動物園の取り組みにも変革が求められ、三浦さんは「綺麗事だけではない実情」があったと語る。
「牛や馬を飼っている農家であれば、ウンチを堆肥にするのは普通のことです。でも、当時の動物園では、それらを『廃棄物』として処分するのが一般的でした。処分してしまうと、当然お金が余計にかかってしまうわけです。できるだけコストを抑えたい、毎日出るこの膨大な排泄物を廃棄せずに資源として利用できないか。それが最初の考え方だったんだと思います」
「環境のために」という大義名分よりも先に来たのは、目の前にある「コストと無駄」への違和感だった。しかし、この素朴な課題解決の視点こそが、後に続く息の長いプロジェクトの土台となっていく。
堆肥作りといえば、においの問題や、発酵を促すための切り返し(かき混ぜ)作業など、現場にとって泥臭い重労働のイメージが強い。多忙な飼育員たちだけでこれを担うのは現実的ではない。
大森山動物園が優れていたのは、このプロセスを精神論で乗り切るのではなく、外部との連携によって「設計」した点にある。
「堆肥の製造自体は、専門の業者さんに委託しているんです。動物園の飼育員の仕事は、日々動物舎を掃除し、出てきたウンチや残り物を堆肥を作る場所まで運ぶところまで。あとは業者さんがホイールローダー(ブルドーザーのような重機)を使って発酵をかけ、細菌が分解していく。だから、僕ら現場のスタッフにとってそこまで負担の大きな仕事にはなっていないんですよ」
※地元の有限会社バクトマテリアルなどの協力を得て、微生物技術や発酵のノウハウを導入し、技術的な課題をクリアしている。
すべてを自社で抱え込むのではなく、得意なパートナーに任せる。現場に「環境のために無理をして頑張れ」と強いるのではなく、日常の業務フローの中に組み込めるよう設計したからこそ、この取り組みは30年近くも続いてきたのだ。
こうして出来上がった「ゾウさん堆肥」は、動物園のすぐ近くに借りている畑に撒かれる。そこでイネ科の牧草(スダックス)を栽培し、大きく育ったところで刈り取り、再びゾウたちに食べさせるのだ。
「ゾウたちも普段は味気ない干し草を食べていますが、夏場に旬の青草を食べられるというのは体にもいいですし、何より喜んで食べてくれているのがわかります」
さらに、この一連の循環プロセスには、地域の小学生や支援学校の子どもたちが毎年参加しているという。
「自分の背丈ぐらいまで成長した草を子どもたちがみんなで刈り取って、手押しの一輪車に乗せてゾウ舎まで運んでいくんです。そして、目の前に現れた大きなゾウに、自分たちが育てた草を食べてもらう。間近でゾウを見る機会もそうはないですし、自分たちが育てたものをしっかり食べてくれるというのは、子どもたちにとってものすごくやりがいや手触り感に繋がっていると思います」
排泄物が土を作り、土が草を育て、それをまたゾウが食べる。この極めてシンプルで美しい循環を、子どもたちは自らの体を使って「体験」として理解していく。
現在、このゾウさん堆肥は「無人販売」として園内で売られたり、地元のホームセンターに卸されたりと、一般の消費者にも広く届くようになっている。
夏には、この堆肥を使って育てた「夏野菜の販売会」も園内で行われ、来園者が買って帰る仕組みもできた。
さらに、循環の輪は動物園の想定を超えて地域へと広がっている。
「隣町の小学校で、ゾウさん堆肥を使って無農薬の酒米を作っている『草木谷を守る会』などのグループがあるんです。彼らは、秋に稲を刈り取った後の『稲わら』を、またゾウの餌として動物園に提供してくれます。他にも、農家さんが多めにできた野菜を提供してくれたり。巡り巡って、それが動物園の運営そのものを助けてくれているんです」
単なる「コスト削減」から始まった活動は、今や地域の農家や子どもたちを繋ぐ社会インフラのような役割を果たしている。
「正しさ」を押し付けるのではなく、「堆肥を使えば美味しい野菜が育つ」「動物の餌代が助かる」という、それぞれのメリットが自然に噛み合うように設計されているのだ。
「他の動物園のように特定のスター動物だけを前面に押し出すのではなく、私たちが伝えたいのは、こうした環境や循環のことなんです」と三浦さんは語る。
「今、秋田県は人口が減り続けています。だからこそ、これからを担う若い子たちに、こうした循環に興味を持ってもらいたい。そして将来、彼らがまた子どもを連れて動物園に来てくれたら嬉しいですね」
環境配慮とは、決して無理をして頑張るものではない。視点を変え、周囲を巻き込み、行動をどう設計するか。
未利用資源から生まれたこのやさしい循環は、私たち一人ひとりに、日常の中から始められる「明日への価値」の作り方を静かに物語っている。
| 住所 | 〒010-1654 秋田県秋田市浜田字潟端154番 |
|---|---|
| 電話 | 018-828-5508 |
| 公式サイト | https://www.city.akita.lg.jp/zoo/index.html |