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投稿日時:2026.08.09
「海洋ゴミ」という言葉を見かける機会が年々増えている。その一方で、日常ではなかなか見えづらい、海洋ゴミの現状。
海岸に打ち上げられたペットボトルや漁具、海を帯状に漂う海洋ゴミ。それらの画像や映像を見て、漠然とした危機感を抱いている人も多いのではないだろうか。
今こそ知っておきたい、海洋ゴミの現状や原因、国内外での取り組み、近年注目される「オーシャンバウンドプラスチック」という考え方などを深掘りして紹介する。
海洋ゴミとは、海に流れ出たり海岸に流れ着いたりしたごみの総称。国は「海岸漂着物(漂着ごみ)」「漂流ごみ」「海底ごみ」の3つの種類に分けており、それらを総称して「海洋ごみ」と定義している。
環境省の令和7年版白書によると、海洋ごみは流木など自然由来のものもあるが、回収・処理されたごみにはプラスチックが多く含まれており、海を漂流するなかで劣化し粒子化した「マイクロプラスチック」による生態系への影響は世界的な課題となっている。
国連環境計画(UNEP)によると、河川・湖沼・海洋を含む水域全体へのゴミの流出量は年間1,900万〜2,300万トンとされ、これは1日あたりゴミ収集車2,000台分に相当する規模だという。
こうした流出物の多くは太平洋の還流域に蓄積し、「太平洋ゴミベルト」を形成している。「太平洋ゴミベルト」とは、約160万平方キロという広域に数万トンというごみが密集して漂っている海域のこと。その広さは、日本の国土の約4倍に匹敵するという。
エレン・マッカーサー財団が2016年に発表し、世界中に衝撃を与えた「2050年までに海のプラスチックが魚の重量を上回る」という予測は、今なお国際機関の資料で広く引用されているが、これらの数字を見ると、それが決して大袈裟な話ではないことがわかる。
そして、OECDが2022年に公表した「Global Plastics Outlook」によると、2019年時点で世界の水域へ流出したプラスチックごみは年間610万トン、うち海洋への流入は170万トンと報告されている。
同報告書では、海洋にはすでに約3,000万トン、河川には1億900万トンが蓄積し、対策なしでは流出量が2060年に倍増すると予測している。
また国土交通省の資料によると、環境省の海岸ごみモニタリング調査では、いずれの調査地点でも人工物由来の漂着ごみの多くをプラスチックが占めていることが確認されているという。
海洋ゴミはプラスチックだけではないが、いかにプラスチックが大きな影響を及ぼしているかは明白だ。
実際にプラスチックごみは、どのような影響を与えているのだろうか。
ウミガメや海鳥、魚類はプラスチックをエサと誤って飲み込んだり、漁網に絡まったりすることがあり、それらが生態系に被害を与えている。
英プリマス大学のサラ・ガル氏とリチャード・トンプソン氏による2015年の論文では、海洋ごみによって約700種の生物が死傷し、うち92%がプラスチックごみによる被害だと推定されている。さらに、スザンヌ・キューン氏とヤン・アンドリース・ファン・フランエーカー氏が2020年に発表したレビュー研究では、誤飲、絡まりの影響を受けた種は914種にのぼると報告している。
また、5mm以下の粒子状となった「マイクロプラスチック」は自然分解されにくく、食物連鎖を通じて生物の体内に蓄積される点が懸念されている。
2026年4月にアメリカ政府は、飲料水中のマイクロプラスチック対策として過去最大級の方針を発表しており、人体に蓄積したマイクロプラスチックの測定・除去技術を開発する1億4,400万ドル規模のプログラム「STOMP」を立ち上げている。
マイクロプラスチックが健康に及ぼす影響は依然未解明な部分が多いものの、国レベルで本格的な検証が始まった段階といえる。
海洋ゴミの発生源は「陸上由来」と「海上由来」に大別される。
英リーズ大学の研究者らが2024年に学術誌「ネイチャー」で発表した研究によると、世界の陸上からの流出量を国別に見ると、インドが世界全体の約2割を占める年間930万トンで最多となり、次いでナイジェリアが350万トン、インドネシアが340万トンと続き、内陸部のごみが河川を経て海へ流出するケースが多いとされている。
海上由来では、漁網やロープが破損・紛失によりそのまま海に残される「幽霊漁具(ゴーストギア)」が問題視され、海洋ごみの課題のひとつとなっている。回収されないまま魚介類を絡め取り続けるほか、船舶の航行トラブルの原因にもなる。
最近では、回収した漁網をリサイクルした製品などを見かけることが増えているが、それはこうした海洋ゴミ問題の背景から派生している。
海洋ゴミのなかでも、近年国際的に広がりを見せているのが「オーシャンバウンドプラスチック(OBP)」という考え方だ。
OBPとは、海岸線から50km以内の廃棄物管理体制が不十分な地域にあるプラスチックごみのこと。
すでに海に流出した「海洋プラスチックごみ」とは異なり、「今後、高い確率で海に流出するリスクを抱えたプラスチック」として定義される点が特徴。この概念は、ジャンベック博士らが2015年に「サイエンス」誌で発表した研究をきっかけに広まったとされている。
海洋プラスチックごみの約70%は陸地由来と推定されている。ということは、流出前の段階、つまりOBPの状態で回収する方が効率的ということだ。
だが、実際のOBP回収の多くは、正式な廃棄物処理体制が及ばない地域で、非公式に活動する「ウェイストピッカー」と呼ばれる人々によって担われている。
回収されたプラスチックは、集積拠点に持ち込まれた後、樹脂の種類や色ごとに手作業で選別され、汚れや異物を除去したうえでリサイクル業者へ売却。
商業的に価値のあるPETボトルなどは粉砕・洗浄されてフレークやペレットに加工され、繊維や包装資材などの原料として再利用されるが、その一方で、リサイクルできない低価値のプラスチックは、埋立や焼却処分に回されるケースが多いのが実情だという。
こうした回収・処理の透明性を担保するため、出所や処理過程を第三者機関が検証する認証制度も登場しており、OBPの課題を解決する方法が模索されている。
こうして見ると、海洋ゴミはつくづく規模の大きな問題だ。しかし、元をたどればそれは人々の生活や営みから生まれたものでもある。
SDGsの目標のひとつでもある「海の豊かさを守る」ためには、レジ袋や使い捨て容器などプラスチック使用量を見直すことや、ビーチクリーンや河川清掃といった活動に参加すること、OBP由来の再生素材や環境認証を取得した商品を選ぶことなど、日常生活の中でもできることはある。
遠い海洋でのことだからこそ、その影響が目の前に現れたときでは、もう遅いのではないだろうか。そして海に住む生物たちには、これらを止めることはできない。今何が起こっているのか意識的に情報をアップデートし、行動を見直していくことは、私たち人間が責任を持って行うべきことなのだ。
>>海の環境保全に取り組む企業を取材しました
記事はこちら 「海を楽しむ、その先へ DIVE SHOP Juaの環境保全」
Photo: Magnific