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投稿日時:2026.04.13
スキンケアは、肌のためのもの。そう思っている人は多い。けれど、その一滴を洗い流したあと、どこへ行くのかまで考えたことはあるだろうか。「自宅の排水口は、海への入り口なんです」。そう話すのは、化粧品メーカー・アーダ・ブレーン代表の佐藤圭さん。
彼のものづくりは、“肌”だけでは終わらない。水、土、空気、そして人の暮らし。それらすべてをつなげて考えるところから始まっている。
同社のモイスチャーローション(保湿化粧水)は、シンプルな使い心地が特徴だ。1986年の創業当時から続くロングセラーで、長く支持されてきた製品でもある。
強い香りもなければ、過剰な機能をうたうわけでもない。けれど、使い続けるうちに、肌の調子が整っていく感覚がある。
限りなく水に近い軽いテクスチャーで、肌にすっとなじむ。べたつきを感じさせず、顔だけでなく全身にも使いやすい設計だ。
「何かを足してきれいにする、というより、肌が自分で整う状態を邪魔しないようにしたいんです」。その考え方の中心にあるのが、“皮膚常在菌”。
肌の表面には、目には見えない微生物が存在し、そのバランスが肌の状態を大きく左右している。つまり、肌を整えるとは、“菌が働きやすい環境をつくること”でもある。
さらに近年のリニューアルでは、トンガ王国産のモズクを新たに配合し、よりなじみやすい処方へと改良された。中栓は液だれしにくいラッパ状の形状を採用。細かな使い勝手まで含めて設計されているのも、このブランドらしい特徴だ。
こうした設計の背景には、「肌だけでなく、その先まで考える」という一貫した思想がある。
その発想を象徴するのが、モイスチャーローションにも配合されている、ニンジン由来の成分「カロット液汁」だ。きっかけは、ごく身近な出来事だった。
「会社の近くで、農家さんがニンジンを山積みにして捨てていたんです。形が不揃いという理由だけで、市場に出せない。けれど、見た目以外に問題はない。これ、食べられるのに、なんで捨てるんだろうと思って」
農家に聞くと、栄養価は変わらないという。そこで実際に、分析機関に成分検査を依頼した。
結果は予想通りだった。アミノ酸をはじめとした栄養成分は、市場に出回るニンジンと遜色がなかった。むしろ、採れたての状態に近い分、成分的には優れている部分もあったという。
そこから発想は一気につながる。アミノ酸は、皮膚常在菌の栄養になる。つまり、ニンジンは“肌環境を支える原料”になり得る。
「だったら、これ使えるよね、という話になって」こうして、廃棄されるはずだったニンジンが、化粧品の成分として生まれ変わった。
現在は、より環境条件の良い農地を求めて、成田や神奈川の有機農家と連携し、無農薬ニンジンを使用している。
単なる再利用ではなく、農家との関係、原料のトレーサビリティ、そして肌への機能。
それらすべてをつなげた設計になっている。
佐藤さんの話で繰り返し出てくるのが、「排水」の視点だ。「化粧品は、使ったあと必ず流れますよね、その水は、下水処理を経て、川へ、そして海へと流れていく。海で使わなければ大丈夫、ではないんです」
実際に、家庭から排出された日焼け止めの成分が河川から検出された例もある。さらに、大雨時には浄水処理が追いつかず、そのまま流れてしまうケースもあるという。つまり、日常の中で使うものは、知らないうちに環境に影響を与えているのだ。
この考え方は、容器といった細部にも及んでいる。「例えばポンプ容器って、中に金属のバネが入っているんですよね。あれって分別しにくいんです」
そうした理由から、あえてポンプ式の製品は採用していない。
「自分たちで出したものって、基本的に回収できないじゃないですか。だったら最初から、処理しやすい形にしておいた方がいいと思って」代わりに採用しているのが、アルミ容器だ。
「アルミはリサイクルしやすいですし、一度製品になったものをもう一度アルミに戻すときの負荷も比較的少ないんです」さらに、その蓋も無駄にしない。
「蓋は蜜蝋を使ってキャンドルにもできるんですよ。防災用にもなるし、誰かにあげることもできる」
容器を“使い終わった後”まで含めて設計する。そんな発想が、細部にまで貫かれている。
アーダ・ブレーンの「ミズマモル リサイクル粉石けん」は、福祉作業所と連携してつくられている。原料は回収された食用廃油。製造も、地域の福祉団体が担う。
背景にあるのは、東日本大震災の経験だった。被災地に関わる中で佐藤さんは、福祉の現場には“継続的な仕事が少ない”という現実を知ったという。
「単発の支援ではなく、仕事として成り立つ形にしたいと思ったんです」
その考えから、製品づくりの一部を福祉作業所に依頼する形を取り入れている。
泡立てネットやサンプルの詰め作業なども、そのひとつ。特徴的なのは、価格の設計だ。
あえて高い価格で仕入れることで、作る側の収入として成立するようにしている。
単なる支援ではなく、“仕事として循環させる”ことを重視している。
また、「人も水も守る なかよしスポンジ」では、“長持ちする素材”を選んだ。
分解しやすい素材は環境に良いとされがちだが、短期間で廃棄されれば、結果的にゴミは増える。
「何が正しいかではなく、どう使うか」環境だけでなく、人の働き方や暮らし方も含めて考える。その姿勢が、製品の設計に一貫して表れている。
環境や社会の話になると、どうしてもハードルが上がりがちだ。けれど、佐藤さんはこう話す。「特別なことをしなくていいんです日常の中で選ぶものが、結果として環境や社会とつながっていく」
化粧水を選ぶことも、石けんを変えることも、その延長線上にあるということだ。
最後に、USME読者へのメッセージを聞いた。「まずは疑問を持つことが大事だと思います。“安心・安全”って言葉を、そのまま受け取らないこと」
そう話したあと、少し間を置いて、こう続けた。
「大きなことじゃなくていいんです。家の前を掃除するとか、落ちているゴミを拾うとか、それくらいでいい」「人に見せるためじゃなくて、見えないところでも続ける。そういうことの積み重ねが、結果的に変わっていくと思うんです」
スキンケアは、毎日の習慣だ。だからこそ、その一滴にどんな背景があるかで、暮らしの見え方は変わる。
肌のために選んだものが、水や環境、社会ともつながっている。そう考えたとき、いつものスキンケアは、少し違う意味を持ち始めるだろう。
取材:UEME編集部
写真:株式会社アーダ・ブレーン