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投稿日時:2026.10.16
日本では10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策がすべての企業の義務になった。そして、イギリスでも10月30日から、客から従業員へのハラスメントについて企業が責任を問われるようになる。どちらも客から働く人を守る動きだが、中身はどう違うのだろうか。
イギリス政府の公式サイトや、政府系の労働関係助言機関Acasによると、10月30日から、従業員が客や取引先などの「第三者」(雇用主と従業員以外の人)からハラスメントを受けた場合、企業が「あらゆる合理的な防止措置」を取っていなければ責任を負うことになる。
対象はセクハラに加え、人種・性別・障害・性的指向・年齢・宗教など、平等法が守る属性に関わる嫌がらせが対象。
実はこの規定、2013年に一度廃止された制度の復活にあたる。旧制度では、被害が過去に2回あり、企業がそれを知っていた場合に限って責任を問うものだった。しかし、このルールが使いにくいと批判され、実際に政府が把握する限りこの規定を使った訴えは2件しかなかったという。
新制度ではその条件がなくなり、1回目の被害でも企業の責任が生じうるほか、従業員自身が雇用審判所で企業の責任を問えるようにもなる。
旧制度は被害が繰り返されてから責任を問う仕組みだったが、新制度では、被害が起きる前から「あらゆる合理的な措置」を取っておくことが求められる。これは大きな違いであり、企業の取り組みにはかなりの差が出てきそうだ。
日本の義務化は、2025年に成立した改正労働施策総合推進法に基づいており、具体的な内容は、2026年2月に厚生労働省が公表した指針で示されている。
カスハラとは、顧客や取引先、施設の利用者などの言動のうち、社会通念上許される範囲を超え、働く人の就業環境を害するものを指す。苦情のすべてがカスハラになるわけではなく、正当な申し入れは含まれない。
企業には、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速な対応、特に悪質なものへの対処方針の事前策定などの措置が求められ、違反すると厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象になる。勧告に従わなければ、その旨が公表されることもある。
イギリスの新制度との違いの一つ目は、企業が防ぐべき行為の範囲だ。日本は暴言や過度な要求など、迷惑行為全般が対象になる。一方、イギリスの新たな義務は、セクハラや、属性に関わる差別的な嫌がらせが対象だ。
イギリスでは長年、店員への暴力・暴言が小売犯罪として報じられており、今年4月には店員への暴行を独立した犯罪とする法律も成立している。一方、今回の義務は平等法を改正する形で設けられたため、対象は差別的なハラスメントやセクハラになっている。
二つ目は責任の問われ方で、日本は違反した企業に行政が助言・指導・勧告を行う仕組みなのに対し、イギリスは従業員自身が雇用審判所で企業の責任を問える。ただし、些細な言動や軽い不快感はハラスメントにあたらず、企業に求められるのは状況に応じた「合理的な措置」だと、イギリス政府は説明している。
また、イギリスの法律は「あらゆる合理的な措置」とだけ定めており、何が合理的かは、第三者との接点の種類や頻度、職場の環境によって異なるとされており、平等人権委員会(EHRC)がガイダンスを公表している。
しかし、感じ方は人それぞれであり、そういった難しさをどう解決していくかはこれからの課題になるだろう。
「お客様は神様」という言葉が根づく日本でもカスハラは社会問題として注目されてきたが、カスハラは日本だけの問題ではないようだ。
今回の日英の制度では、守る対象や仕組みは違っても客の言動から働く人を守る責任は企業にある、という方向は共通している。また、イギリスの制度は人種や性別、障害など、さまざまな背景を持つ人を差別的な嫌がらせから守る点が特徴で、ダイバーシティの視点とも重なる。
しかし、たとえ法律が整っても、最後に問われるのは一人ひとりの振る舞いだ。日本の法律にも、客などの側にも働く人の就業環境を害することのないよう必要な注意を払うよう努める責務が盛り込まれている。
今回新たな制度ができ、これが周知されることにより、いずれルールがなくても成り立つ社会になることを願いたい。
Photo:Magnific